「坂本冬美特別公演」坂本冬美・一路真輝・中村梅雀インタビュー
一路真輝、中村梅雀ら豪華共演で坂本冬美、「プレミアムな舞台に」
大阪市内で「坂本冬美特別公演」の取材会が行われ、坂本冬美、一路真輝、中村梅雀が意気込みを語った。
「新歌舞伎座での単独公演としては2年ぶりとなります。昨年は五木ひろし先輩の舞台に出させていただき、ここ数年は毎年のように関西の皆様にご覧いただいていますが、今回は舞台初共演の一路真輝さん、そして中村梅雀さんにもご出演いただき、演歌歌手の舞台とは思えない内容になっています」と坂本。
坂本とはTBSのドラマで共演して以来という一路。プライベートでは親交を深めてきたというが、舞台での初共演に喜びを隠せない様子だ。「共演が叶ってとても嬉しいです。梅雀さんとも本当にお久しぶりで、30年くらい前にドラマでご一緒させていただきました。今回はやっと妻の座につかせていただきます。本当に楽しみで仕方ありません」。
梅雀は一昨年の坂本との共演を振り返り、本公演の期待感をあらわにした。「前回、お芝居も息が合って、楽しくて楽しくて。その後のオンステージでは僕のベース1本で冬美さんが歌うという、とんでもない経験をさせてもらいました。プレッシャーはありましたが、あんなに心地よいことはありませんでした。絶対にまたご一緒したいと思っていたところ、すぐに呼んでいただいて。しかも、今回は一路さんや相島一之さんたちもいる。スペシャルなオンステージになると思います」。
脚本を齋藤雅文、演出を宮田慶子が手掛ける第一部の新作時代劇「弁天お春騒動記」。役どころについては、それぞれこう語った。
齋藤脚本の芝居は2度目となる坂本。「齋藤先生は私のちょっと"三枚目の線"を気に入ってくださっているのか、お春にも面白いところをさりげなく表現してくださっているようです。『面白そうやん?』とくすぐられるような役ですね。本職は芸者ですが、瓦版屋として貧しい人たちの正義の味方となり、いろんな人になりすまして悪を懲らしめます。最終的には梅雀さん演じる男爵の家に忍び込むのですが、そこで一路さん演じる幼馴染と再会します。お春は誰かになりすますことをものすごく楽しんでいるところがあって、台本を読んだ時は冒頭から笑いそうになりました。齋藤先生だからこそ、私の隠れている部分を引っ張り出してくださっているのかなと、ワクワクするような役ですね」。
男爵の一ノ瀬清顕を演じる梅雀。「一ノ瀬清顕は、男爵という地位を持っているが実は...という人物です。裏では骨とう品で儲けていたり、いろんな人を騙してみたり。でも実は、家では奥様に全然頭が上がらない。一見、仮面夫婦に見えるけれども、これまた実は...。この物語は今の社会にも非常にリンクするところがあります。『みんなバディだぞ、一緒に生きて頑張っていこうよ!』というエネルギーを与えてくれるようなお話なので、とても楽しみです」
一路は一ノ瀬清顕の妻・夏子役。「夏子は華族の妻であるのに、なぜ瓦版屋のお春と幼馴染なのか。明治という激動の時代、いろんなことに振り回された女性が、最終的には華族の妻として大豪邸に立っています。夏子の人生を背負っている後ろ姿を見せられたらと考えています」
お春のもう一つの顔である瓦版屋とは江戸時代から明治時代にかけて活躍した印刷物の売り手のことで、時事ニュースを木版印刷して販売していた。現在の新聞記者のような存在だ。記者のイメージを尋ねると、坂本はこう答えた。「記者さんは、いろんなことに興味津々という感じですよね。今も皆さんの目がそうですもん。ちょっとしたことでも『うんうん』と見逃さないぞという気概を感じます」。
ということで、坂本に記者として一路と梅雀に質問をしてもらった。「お二人のように長きにわたってこの業界で、しかも常に表舞台でお仕事をなさっている現役感はすごいと思います。それを維持することや、お芝居ごとに新しいカンパニーに入った時の心構えなどをお聞きしたいです」と坂本。
芸歴60周年を迎えた梅雀は、まずはそのことを意識させないようにしていると答えた。「最近はどこの現場に行っても、ほぼ最高年齢で、みんなが構えてしまいます。なので、それをまず崩します。『初心者です』みたいな気持ちで入って、誰からでも吸収しようという姿勢をとります。普通に話せる雰囲気を作って入っていくという感じですかね」。
一路も来年で45周年。「自分ではそんなに長いことやっていると思っていなくて。だから、どのカンパニーに行っても毎回、新鮮な気持ちで臨みます。周りの方が構えていらっしゃるのもたまに感じますが、私の場合は大体、稽古場入り口でつまづいたり、ぶつかったりしているので、そういう姿をご覧になったら、話しかけやすいみたいです(笑)」。
第二部の「坂本冬美 Premium Stage 2025 ~綺羅星たちのうた~」では、一路、梅雀はもちろん、夢咲ねね、竹内將人、相島一之が第一部に続いて登場。豪華なコラボレーションが実現する。坂本は、次のように声を弾ませた。「一路さんとは初めて本格的にデュエットします。お客様も一路さんが出られるなら、『どこかで歌ってくれるかな』と期待されると思うので、ミュージカルナンバーもたっぷり歌っていただきます。梅雀さんには前回に続いて、ベースを弾いていただきます。共演者の皆様には、お芝居が終わって『やれやれ』と休んでいただくわけにはいかない。梅雀さん、一路さんたちとの共演は、もしかしたら1回きりかもしれないじゃないですか。だからこそ、この夢のような共演を私もフルで楽しみたいですし、お客様にも楽しんでいただきたいと思っています」
ベーシストとしても活動の幅を広げている梅雀。「前回は1曲のみでしたが、今回は3曲。中には相島さんのブルースハープと僕のベースのデュオもあるので、もうワクワクしています。最近はジャズの世界にどっぷりつかっているので、無茶振りもOKです!」
「竹内君と夢咲さんもミュージカルの世界の人間なので、『ぜひミュージカルの曲を』と言ってくださいました。3人でミュージカルのコーナーを担って、冬美さんには喉を休めていただく時間を作っていただきます」と一路、坂本を気遣う一面も見せた。
歌謡ショーの最後は新曲『浪花魂』で締めくくる。「浪花ものと言えば、元気の出る歌だよねといって作っていただいた楽曲です。座長公演ではいつも『夜桜お七』などで終わっていましたが、今回のラストは、ど演歌で派手に締めたいと思います。前半はいろんなジャンルの曲をたっぷり聴いていただいて、ラストに演歌をしっかりと。メリハリの効いた構成を考えています」
歌手生活40年を目前に控える坂本は、歌に対する真摯な思いを語った。「お芝居も楽しいですが、やっぱり歌になると水を得た魚になりますね。ただ、長期公演になると喉の疲れもありますし、私の歌は声を張るものが多いので、そのコントロールも大変です。でも、最後に幕が下りるとき、拍手をいただいて、皆さんの笑顔を拝見すると、全てが報われます。皆さんの笑顔に会いたくて、私たちは一生懸命頑張るのだと思います」。
そして、歌をどう聞かせたいかという問いに、長年のキャリアでたどり着いた境地を明かした。「『今日は声が出る!』と思って独りよがりの歌を歌う時よりも、声が出づらくて『こんな声でごめんなさい』と歌った時の方が、拍手が多かったりするんです。『どうだ!いい声だろう!』『いいコブシが回るだろう!』と思って歌う歌は、決していい歌ではないと舞台に立って感じます。師匠の二葉百合子先生からも『どうだ!っていう歌を歌っちゃダメよ』と言われました。『一生懸命歌っています』という思いが誠心誠意、伝わるような歌であれば、きっとお客様も納得してくれるのではないかなと思います」
「お芝居も、歌謡ショーも、今までにないプレミアムなステージを皆様にご覧いただきたいと思います!」と坂本、今から気合十分だ。
取材・文 岩本和子
撮影 高村直希 ※正しくは「はしご高」